和噺

まぐまぐで配信中のメルマガ「和噺」の過去ログです

ニコライさんの噺(その2)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        和噺   
                         R1/10/13
───────────────────
 
いろいろなところで堤防が決壊して、住宅が水に浸かったりしていますね。大変。まぁ、しょうがないですね、台風だし。さて、昨日の続き。ニコライさんの話です。今日から読み始めたという方は、一番下にバックナンバー用のブログへのリンクがありますので、そちらからどうぞ。
 
二両編成のローカル電車から降りてきた、大男、ニコライさん。誰みたいと言ったらいいのか、難しいですが、カルロス・ゴーンをすごく太らせて柔和にさせたような顔ですね。そんで、坊主頭。で、お遍路さん姿。カオスです。
 
さて、ニコライさん、何のために我が家に滞在したいのか。聞いてみると、もともとは2ヶ月の予定で、歩き遍路をする予定だった。だけど、半分ぐらい回ったところで、ペースを計算してみたら、2週間ぐらい余ってしまうことに気付いた。なので急遽、どこかでボランティア活動をしよう、と思い立ったらしい。
 
説明しよう! 歩き遍路とは! 
 
お遍路ってのは、四国に88箇所ある寺をめぐる壮大なスタンプラリーです。作者は空海徳島県からスタートして、時計回りに四国の海岸沿いを一周します。徳島→高知→愛媛→香川→徳島(ゴール)ってルート。で、近年はバスツアーだったり、車で回ったりという人も多いのですが、ガチな人は「歩き遍路」といって、徒歩でこれを行います。大体、2ヶ月かかりますが、当然、個人差があります。ニコライさんは歩くのが早かったから、四万十(高知西部)あたりで、これは2週間余るな、って気づいたらしい。
 
で、ボランティアサイトで近くのホストを検索したところ、うちがヒットした、という流れ。ちょうど、そのタイミングでうちにホームステイしている人がいなかったこともあり、僕としてもラッキーでした。これから2週間、ニコライさんにうちの仕事を手伝ってもらうことにします。
 
さて。どんな仕事をお願いしようか。
 
うちに来る人に、主にお願いする仕事は、草刈りと薪割りです。だけど、人によって得意なこと、不得意なことはありますし、できれば、その人に一番合った仕事をしてもらいたいと思っています。極端な話、華奢な女の子だったら、草刈りも薪割りも出来ませんから。ベビーシッターとか、子供に英語を教えてもらったりとか、皿洗いや掃除とか、そんなことをお願いする場合もあります。
 
で、ニコライさん。草刈りをやらせてみようと思ったのですが、ニコライさんの体が大きすぎて、どうもバランスが悪い。草刈機が小さすぎる。チェーンソーも経験が無い人には危険だから、させられない。考えた結果、「倒れて草もつれになった柵を撤去する仕事」をお願いすることにしました。
 
説明しよう! 倒れて草もつれになった柵を撤去する仕事とは!
 
我が家のすぐ下に100坪ぐらいの畑がありまして、僕がこの地に入植した当初、畑の作物を動物から守るために、この畑をぐるりと柵で囲ったんですよ。木の杭を打ち、板を横に張り、網も張って、というのを僕が1ヶ月ぐらいかけて作りました。1ヶ月というのは、それにかかりきりではないから、時間にしたら50時間ぐらいかな、って感じですけど。いや、これも今やれば、もっと早くやれるけど、最初は手探りでやっていたからね。結構時間がかかりました。
 
で、そんな柵に囲まれた畑で2年ぐらい家庭菜園をした後、台風で柵が倒れました。この時、僕は「木の杭は腐る」という当たり前の事実に気付いたのですが、それはまた別の話。で、苦労して立てた柵がベターっと全て倒れて、その時、すぐに撤去すれば良かったのですが、まぁ、見たくないじゃないですか、そういうやつって。で、1年ぐらい放っておいたら、生えてきた草に絡まり、埋もれていった。もうどうしようもないねぇ、って感じ。それを撤去するという壮大な仕事を、ニコライさんに発注したのです。
 
僕の感覚では、これは結構な重労働です。僕がやれば、まぁ4〜5日ぐらいで出来るかな、という感じ。で、素人さん(偉そうですね!)がやる場合だったら、倍以上はかかると思うから、まぁニコライさんがいる2週間の滞在のうち、実働10日として、それぐらいで終わればいいよね、ぐらいの仕事を、依頼したわけです。
 
2日で終わらせたからね、ニコライさん。
 
やべえよ、あのロシア人。あ、ニコライさんはエストニア国籍だけど、ロシア人なんですよ。ソ連出身。同志ニコライです。「草もつれになった柵を撤去する仕事」を、僕がやるとすれば、まず、草によって大地と一体化した柵が全く動かないですから、表面を草刈機で刈るのがファーストステップ。で、草の根元を鎌で切っていって、柵を一つ一つバラしていって、薪に使えるものは薪にする、という感じの流れです。僕がやるなら、ね。
 
で、ニコライさん流のやり方。草もつれになった柵を見たニコライさんは「アイロン・ロッドは無いか?(英語)」と言ってくるんですよ。なんだ、RPGの武器か、って思ったんですけど、要は「鉄の棒」ですよね。おあつらえ向きに、我が家には「しょうれん」という鉄の棒があります。これは、高知のローカル農作業道具なんだけど、穴を掘る時に使う鉄の棒です。「穴を掘る時に使う鉄の棒」って、もう、猿っぽさがすごいですけれども、そうなんだから、しょうがない。
 
結構、大きな棒ですよ。1メートル30センチぐらい、重さは10キロぐらいあるんじゃなかろうか。これをニコライさんに装備させました。あ、この時のニコライさんは、お遍路コスプレから、私服のサスペンダーパンツに変更しています。体が大きすぎて、適切なベルトが無いのだろうと思います。RPG風に言うなら
 
同志ニコライ(エストニア
E アイロン・ロッド
E ワイシャツ
E サスペンダーパンツ
 
って感じです。で、ニコライさんの方法は、このアイロン・ロッドを、草もつれになった柵の下に差し込み、力任せに持ち上げるという、化け物のような仕事の仕方でした。え、それって人力で動くんだ、と思いましたもんね。やべえな、2メートル100キロのロシア人。で、ずっと笑顔。歌とか歌っちゃっている。なんだこの人。
 
で、それを朝7時ぐらいから日暮れまで、ぶっ通しで続けます。うちは一応、週5日、1日あたり5時間で十分だと言うんですけれども、やりたいからって、朝7時から来るんですよ。それも本当は、本人は朝5時ぐらいから働きたいんですけど、我が家に気を使って7時に来るんですよ。で、アイロン・ロッドを装備して、柵をバリバリと解体していくんですよ。2日で終わらせたって言ったけど、実質、1日半ぐらいだったかな。
 
で、お昼ご飯を一緒に食べるわけですよ。そんな人だから、すごく食べると思うでしょ? 全然、食べない。超、少食。レディースセットぐらいしか食べない。ダイエット中のOLが表参道のカフェで食べるマクロビランチセットぐらいしか食べない。で、朝食と夕食は、僕が材料を提供しているんだけど、それも「少しの野菜があればいい」ぐらいしか言わない。多分、1日でキュウリ1本と、キャベツ半分ぐらいしか食べていない。で、あの動き。
 
カロリー計算的には、その辺でイノシシでも捕まえて食べていないと割に合わないと思うんですけれどね。そんなに少食で、野菜しか食べないのに(ベジタリアンというわけではなく、昼食に肉があったら普通に食べる)、あの働きっぷりですよ。で、さらにすごいのが、昼食時のマシンガン・トーク
 
OLのごときランチをペロリと食べ終わった後、ニコライさん・オンステージの開幕ですわ。僕が「エストニアって、どんなところ?」と聞いたら、マジでその後、1時間ぐらい喋り続ける。早口の英語で。僕もその時は、ホームステイのホストを始めて間もない頃だったから、リスニングも、そんなに出来ていないんですよ。でも、年上の大男のロシア人が、マシンガントークを繰り出してきますから。必死で聞き取る。ニコライさん滞在の2週間で、かなりリスニング能力は向上しましたよ。
 
ニコライさんの話によればーーま、僕が聞き取れたのは全体の半分ぐらいだと思うから、その中の僕が聞き取れた部分によれば。もともとソ連出身のニコライさん。ソ連時代は、現代に比べて、すごく良かった。国は貧しかったけれども、みんな幸せに暮らしていた。ペレストロイカでロシアになってから、貧富の差が出てきて、多くの人が不幸になってしまった。悲しす。ニコライ悲しす。
 
結婚して、エストニアに移住した。というか、そもそもエストニアソ連の一部だったから、ソ連に住んでいたら、自然とエストニアになっていた、って感じ。エストニアは、エストニア人が大半で、ロシア人は少数派。政権幹部とか、有力者はエストニア人ばかりで、ロシア人は冷や飯を食わされている感じ。ニコライさんはそこで、翻訳の仕事をしている。電化製品の説明書を、英語からロシア語に翻訳する仕事を、個人でやっている。
 
プライベートでは、子供もいたんだけど、離婚しちゃった。原因は、自分が優しいことだと思う。ロシアの男は、暴力的じゃないといけない。ケンカに強くないと、モテない、女の人に嫌われる。嫌でもケンカをしないといけない。でもニコライさんは、人を殴るのが苦手。だから奥さんに嫌われたのだと思う、と、早口の英語でまくしたてる。
 
ソ連は良かったけれども、唯一、嫌だったのは、すぐに捕まって刑務所に入れられること。警察官の気分次第で刑務所に入れられちゃう。友達が10人いれば、そのうちの1人か2人は、今、この瞬間に、刑務所に入っているというぐらい。で、人生の中で刑務所に入る経験がある人は、2人に1人ぐらい、っていう感覚。ニコライさんの経験談だから、真実は知りませんよ。
 
で、なんで捕まるのか。先ほど説明したように、ロシアでは、暴力を振るうことがモテる条件。だから、酒場とかでは、すぐにケンカが始まる。で、暴れたりすると、運が悪いと逮捕される。で、刑務所に行く。警察官の気分次第で刑期が決まるから、1週間で出てこれることもあれば、3年ぐらいシベリア送りになることもある。それは、ソ連の嫌なところ。(でも、そんなソ連でも、今のロシアよりは幸せだった、と言っている)
 
僕の質問。ロシアの人は、みんなニコライさんのように、すごく働くのか、と。ニコライさんの答え。その通りだ。ロシア人は、超働く。なぜなら、ソ連の人というのは、基本的に農民である。で、ロシアの夏は短い。その短い夏の間に一生懸命、働いて、作物を育てないと、冬に死ぬ。だから夏の間は、朝から晩まで休みなく働く。今、私(ニコライさん)が、休みなく朝から晩まで働くのは、ロシアでは普通のことである。
 
冬はやることがないから、みんなウォッカを飲む。で、早死にする。ロシア人は皆、若くして死ぬ。自分もあと10年以内に死ぬと思う(当時、50歳)。それまでは、世界を旅して、人々の役に立つことに、私の身を捧げたい。私の喜びは、人を助けることである。だから、あなた(僕のこと)の農場を手伝うことは、私の喜びである。朝から晩まで、休みなく働く私を見て、心配するかもしれないが、それは私が望んでしていることなのである。だから気にする事はない。
 
という言葉どおり、ニコライさんは2週間、朝から晩まで働き、最後の日には「これは食べなかった、残りの食料」と、キュウリ2本を僕に渡して、お遍路に戻っていきました。
 
いやぁ、マジで感銘を受けたね。神か、と思ったね。今まで、いろいろな人が来ましたよ。100人は行っていないけど、というぐらいの人がうちに来たけど、そして中には、すごく頭のいい人や、スキルを持った人や、話の面白い人もいたけれども、誰が一番、働いたかと言ったら、ニコライさんだね。これはもう圧倒的。ちなみに最年長もいまだにニコライさん。ハラショー、同志ニコライ。スパシーバ、同志ニコライ。いつかまた会いたいね、同志ニコライ。
 
さて。後日談その1。
 
僕がホスト登録をしているサイトには、来てくれたボランティアさんに対する評価を公開できるのです。で、ニコライさんは、うちでのボランティアが最初だったので、その時はコメントが無かったのだけど、後日、世界各地から「このロシア人はやべえ、こんなに働く人は見た事ない!」というコメントが積み重なっていきました。今もどこかで人助けをしていると思う。
 
後日談その2。
 
我が家では、来た人に、思い出として、背を測って柱にサインをしてもらっているんですよ。子供の背の記録、みたいなやつ。ニコライさんは巨大だから、ホームステイ経験者のサインの中で、一番上にありましたが、去年、ポーランドの女の子が並びました。現在、1位タイでニコライさん(エストニア)と、ポーランドの女の子。ポーランドの子は今年もうちに来て、現在は湯布院の旅館でバイトしています(前にメルマガで書いたよね)。湯布院で背の高いポーランド娘を見たら「この人か!」と思ってください。
 
──【NEWS PICKUP】────────
 
肉食をやめても温暖化は止まらない
 
牛が排出するメタンガスが温暖化の原因だとして、肉食が環境保護の標的になりますが、実際に肉食をやめたら、どのくらい効果があるのよ?と計算したという記事。温暖化ガス全体の2.6%という数字が大きいか小さいかは、個人の意見によりますが、小さいと思う人が多いのじゃないでしょうか。
 
──【おまけのはなし】────────
 
 
今日は町でお祭り、っていうのか、イベントがあって子連れで参加予定。もち投げがあるから、明日からしばらく朝食は、餅。
 
──★バックナンバーはこちらから───
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━