和噺

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アリとキリギリスの噺

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        和噺   
                         R1/08/09
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生活保護って、20万円近くのお金がもらえるじゃないですか。普通にやれば余裕で生活できると思うけど、そのお金を一ヶ月持たずに使い切っちゃって、支給日前にはお金が全然なくなっちゃう人がたくさんいるんですって。だからその対策として、NPOの人とかが管理して、一ヶ月じゃなくて一週間ごとの支給にするとか、そういう工夫をしているんですって。
 
ていう話を聞いて「バカなの? 手元にお金があるからって使うとか動物なの?」という感想を多くの人が抱くと思います。まあ確かにバカといえばそれまでなんですけど、有り金を全部使っちゃうって、本来の人間のあり方だとも思うんですよ。本能的。で、普通は本能に反した行動を取る方を「頭がいい」と言いますから、本能的なやつはバカだ、となるんですね。
 
老後のために2000万円、貯めときましょう、みたいな話もありましたが、こういうような「将来のために貯めておく」ということって、本能的に出来るものじゃありません。学習によるものです。なぜなら、毎度言いますが、人間のDNAってのは我々が狩猟採取世界に生きていると想定しているからです。
 
人間はアフリカで誕生しましたね。暖かいところです。だから人間は、毛皮が無いんです。本来は、雪が降るような場所に住む生物じゃないんですよ。霊長類って大抵、熱帯に住んでいるでしょう。雪が降る中に住んでいるのはニホンザルだけです。英語ではニホンザルのことを「スノーモンキー」と言います。猿は暖かいところの動物だから、雪の中にいるのが珍しいんですよ。
 
人間は服を発明することにより、寒いところでも生きられるようになったんですが、本来は熱帯や亜熱帯の動物であり、DNAはいまだに我々がそこに住んでいると思っているんです。だから、冬のために備える、ということも本能的な行動では無いのです。文化として、冬には食料が取れなくなるから、夏の間に貯めておかないと冬を越せないよと、後天的に学ぶわけです。
 
アリとキリギリスの話は、そういうことです。人間は本来、アリじゃないから、ああいう物語が成り立つんです。わざわざ物語として「アリとして生きましょうね」と言わないと、みんなキリギリスとして生きちゃうんです。生活保護費を支給日にパーっと使っちゃうんです。それが本来の人間の生き方なんです。
 
だって熱帯に生きていたら、食料の保存のしようもないんですよ。腐るから。その場で限界まで食べる、仲間に振る舞う、というのが正しい行動なのです。だけど「冬」のあるところに住む人は、夏の間に貯めなきゃいけないから、我慢して貯めておくことは良いことですよ、という価値観になる。環境により、正しい行動というのは違ってきます。だから地域が違えば、文化(行動様式)の違いが生まれます。
 
「冬に備えて貯める」というのが、我慢や貯蓄といった文化を生み出しました。さらに農業がそれに拍車をかけます。今、タネをまいておけば、半年後には麦が食べられる。リンゴのタネをまけば、5年後にリンゴが食べられる。これも、本能には無いパターンです。だから「嫌々やる」のです。タネをまくとか、雑草を取るとかは大変なのに、なんの見返りも(すぐには)無いのですから。楽しくない作業なんですよ。
 
嫌になるんだけど、それが良いことであるという文化が、農業の誕生以来、何千年にわたって形成されてきたから、そういう行動が「善」という価値観になります。良いことというのは、その環境において最適化された行動であるということです。環境が変われば価値観も変わります。いきなりは変わりませんが、じわじわと変わります。
 
現代、そして近未来は、冬の寒さに怯えることは無いだろうし、農業に携わる人も少ないだろうから、「アリが良い」という価値観も消えていくと思います。本能的に楽しいことの方が好きだっていうのは普通のことだから、キリギリス的な生き方になるでしょうね。これは堕落したとかじゃなく、環境の変化によって文化が変わった、ということです。本能的な行動が一番、楽なのだから、そうしても生きられるのなら、そうなるのだと思います。
 
今までの人類社会には、アリ文化とキリギリス文化があって、アリ文化は農業文化です。農業の方が人口が増えるから、強いんです。世界のどこでも、農耕民族の方が狩猟採取よりも単位面積あたりから得るカロリーが多いから、人口が増えるんです。だから、戦うと強いんです。人口が増えれば、専業化もできて、戦うのに特化した人(戦士)も出来ますから。アリの巣には働きアリも、戦闘アリもいるようなものです。
 
日本の場合は狩猟採取の縄文人が、農耕民族の弥生人に滅ぼされましたが、そういうことが世界中で起こって、農耕文化を良しとする価値観が広まり、それが現代まで続いています。努力は報われるとか、真面目にしていれば良いことがあるとか、無意識に我々が「善」と思っていることのほとんどは、農耕文化によって築かれた文化だと思います。(だから逆に、狩猟採取文化を、野蛮だとか残酷だとか怠け者だとか、感じるようになる)
 
ちょっと話をそらすけど、江戸っ子の「宵越しの金は持たねえ」っていうのは、江戸の町人ってのが日雇いで働いていたキリギリスだからです。狩猟採取のマインドに近いんですよ。都会(江戸)という、そこらへんに食べ物があって建物もあるという環境の中で育まれた文化です。農業マインドじゃないんですね、江戸っ子は。
 
ま、さっき書いたように、今後の世界はキリギリス方向に行くと思いますけれども、さらにもっと未来を見れば、いつかは天井に突き当たるんですよ。というのは、地球が有限だから。そして人間の欲望(妄想)というのは無限だから。死にたくないけど死んじゃうし、瞬間移動したいけど出来ないし、宇宙の果てまで行きたいけど行けないし。今は、その天井が見えていないからキリギリスでいられるんだけど、いつかいられなくなる時が必ず来るとも思います。
 
そういう時に、人類がどういう文化を作るか。アリのように苦しみの中で働くわけでも、キリギリスのように本能的に楽しんで生きるわけでもない、人間という立場を理解し、有限の地球で仲良く生きていく道。数百年後にはそういう文化になると思うし、ならなきゃいけないと思うんだけどね。
 
──【NEWS PICKUP】────────
 
増加する訪日ロシア人、彼らは日本に何を求めているのか?
 
うちのホームステイ受け入れも、今年、初めてロシア国籍の人からオファーがあったんですよ(ロシア人としては初めてではない)。で、ロシアの人が日本に来る時にビザが必要なんですって。僕も書類をいろいろ書かなくちゃいけなくて、やったんだけど、結局なんだかんだで来れなかったという話がありまして。
 
で、その人は17歳のロシア人だったんだけど、なんで日本に来たいかっていうと太宰治のファンで、太宰の墓参りがしたいと。で、三鷹に行きたいと。なんかすげー理由だなと思いました。太宰作品って暗いし、確かにロシア文学ぽいよね。寒いところの人同士(太宰は青森県の人)、気があうのかもね。
 
まあ、ともあれ日本のパスポートを持っていると、ビザをとる必要がほとんど無いから、新鮮な体験でした。日本に来る場合も、ほとんどはビザが必要ないだろうしね。昔、ガーナ人にビザのインビテーション(招待状)を送ったことあったけど、その人も結局、来れなかったなぁ。
 
──【BOOK REVIEW】────────
 
『千年万年リンゴの子』
 
漫画です。全3巻。神話的な、オカルト的な、不思議な話でした。舞台は青森のリンゴ園で、そこに婿として嫁いで行った男(嫁いでって、おかしいけど)の目線で語られる物語。昭和の風景。禁断のリンゴを嫁に食べさせてしまったことから、転がり始める物語。面白かったです。現実と幻想の混じり具合が絶妙でした。キンドルなのでプレゼントは無しデェス。
 
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