和噺

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ムササビの噺

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        和噺   
                         R1/08/02
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うちの集落では1年に2回、道づくりと言われる行事があります。「道づくり」という名前ですが、実際は「道路の掃除」ですね。自分たちで使う道路は、自分たちで維持しよう、という活動です。
 
都会の道路は、国道とか県道とか町道とか、自治体が管理しているものがほとんどでしょうが、うちの集落の道は部落道(ぶらくどう)といっていて、いきさつは知らないけれども、部落が管理するってことになっているんですよ。メンテナンスを、部落の住民で行うのです。
 
もちろん、自分たちでは無理なほどの修理ーー例えば昨年の西日本豪雨では、部落道の一部が20メートルぐらいにわたって崩落したのですが、こんなのは自分たちでは直せません。町に申請して修理してもらいます。そこのへんの資金の流れとかは、僕は部落運営に関わっていないから知らないけれども、まぁ一住民の感覚としては、普段は自分たちで行い、無理なのは町にお願い、という感じです。
 
先ほどから「部落」と言っていますが、これは「集落」という意味ね。部落=被差別部落、みたいなコトバとしての印象があるけれども、部落とは本来、ただの集落という意味です。うちの周りでは、集落を自称するときに「集落」や「村」よりは「部落」という言葉を使うことが多い感じがしますね。
 
まあ、そういう部落道のメンテナンスを1年に2回、住民総出で行うわけです。一家庭(一戸)から一人、出席しなければならない。出席しないと村八分になってタヌキの死骸が玄関先に吊り下げられているというようなことは無く、年末の部落会計のときに欠席ペナルティとしての5000円を支払います。
 
ぶっちゃけ損得勘定だけで言えば、5000円なら道づくりに出ないで5000円を払ったほうがいいってのは皆んな分かっているんだけど、そういうことをすると道づくり自体が成り立たないので、皆さんちゃんと出席されます。中には、どうしてもその日は出られないから、代わりに人を雇って(日当は1万円ぐらい)自分の代わりに出てもらう、というケースもあります。部落の共通行事では、この道づくりが一番大事。
 
道づくりではどういうことをするかっていうと、道沿いの草刈り、草とか落ち葉の清掃、張り出した木の伐採、あと、もし道路に穴があったらコンクリで補修したりもします。部落道は、おそらく総延長で数十キロはあるんですよ。それを、数十人でやります。がっつり1日がかりの仕事ですよ。っていうのが、春と秋の年2回ある、道づくりという行事。
 
さて。何年か前の道づくりの日は嵐でした。風が強くて、雨も降ったりやんだりしている。本当の大雨だったら一週間後に延期するんだけど、少々の雨だったら決行します。だって、みんなこの日をわざわざ空けているわけですからね。その日も、やれないことはないというレベルの、風と雨の中での作業でした。
 
道づくりも終わりに近づいた頃。僕はホウキで落ち葉の掃除をしていたのですが、道の真ん中にネズミみたいな生き物が落ちているんですよ。灰色がかったピンクで、目も開いていない、何かの赤ちゃん。一緒に作業している人に聞いてみたら「そりゃ、ムササビの赤ちゃんよ」とのこと。頭上には杉の木がありましたので、おそらく、強風で巣から落ちたりしたんでしょうね。そこに僕が通りかかったというわけです。
 
本当だったら巣に戻すのが一番いいのでしょうけれども、高すぎて無理。捨てるわけにもいかないから、帰って育ててやろうと思いました。近所の人の「ムササビは人に懐(なつ)くで。俺も昔、育てたことがある」という言葉もあり、それじゃあペットとして育ててみようかな、と。タオルにくるんで、家に持ち帰りました。
 
しかしよく見てみると、このムササビの赤子、ダニだかノミだか知らないけど、小さき生命が肌をうごめいている。やべえ。小さき生命は、意気揚々とタオルに引っ越したりしているし。これは触りたくない。タオルも捨てたい。とりあえずシャンプーして、乾かして、キレイにしてみました。
 
餌は、そりゃムササビだから「ムササビミルク」が一番いいんだろうけど、売っていないですからね。しょうがないから、牛乳を人肌に温め、スポイトで与えてみます。すると、普通にチュパチュパ吸うんですよ。するとね、心がうずく。母性本能だか父性本能だか分かりませんが、愛情がガッツリ刺激されますね。「ムサちゃん」とか言っちゃったりして。ニホンザルが子犬を育てたりしますが、ああいう感じですわ。異種間に芽生える親子の絆。
 
夜は、添い寝したら寝返りで踏み潰すだろうから、小さなプラスチックの箱に、タオルでくるんだホッカイロを入れてやります。で、二、三時間おきにミルクをやったりして。世話したんですが。
 
いやー。普通に死にましたね。難しいね、動物の世話。3日目ぐらいの朝、普通に死んでましたわ。あれは結構、悲しかったね。子を失う親の気持ちの0.6%ぐらいは分かった感じがするね。ムササビロスですわ。ムサロス。ヤギやヒツジが死んでも、それほど悲しくなかったけど(家畜だし)、ムササビは悲しかったね。やっぱり、スポイト越しとはいえ、授乳するという行為が心に絆を生んじゃっていたね。
 
授乳している二、三日の間、ちょっとムササビのある暮らしを想像していましたもん。大きくなって、家の中を飛び回ったりして。でも夜行性だし、うんこもその辺にするだろうし、大きくなったら難しいだろうかな、とか。外にムササビ小屋を作ったら、暗くなったら餌を探しに森に行って、明け方に帰ってくるかな、とか。夢想しちゃっていましたもん。まあ、三日だけの儚(はかな)い夢でしたけどね。
 
ってのがムサちゃんの思い出。以下、余談。ムササビっていうのは、よく屋根裏に巣を作るんですよ。夜中、屋根裏のガタガタって音が、「これネズミってサイズの音じゃないよね、猫じゃない?」って思ったら、たぶんムササビ。モモンガっていうのは、ムササビとは似ているけど、もっと小さいです。「空飛ぶ座布団」がムササビで、「空飛ぶハンカチ」がモモンガ(か、ムササビの子供)です。
 
で、知り合いの移住者の屋根裏にムササビが住み着いたんですわ。それがある日、天井が抜けたのか、親子でドドドっと部屋に落ちてきた。その時、家にいたのは奥さんだけ。パニックになる奥さん。それ以上にパニックになるムササビ一家。部屋の中で走り回ります。奥さん、部屋から逃げ出して、隣のおじいさん(地元民)に助けを求めに行ったんですわ。「ムササビが部屋にいる、どうにかしてー」と。
 
そこで張り切ったおじいさん、当時80歳ぐらい。棒を片手に部屋に乗り込むと、躊躇なくムササビを滅多打ち。鮮血に染まる和室。飛び散る内臓。静まる空気。微笑むおじいさん。「よっしゃ、片付いたで」と、血だらけの棒を手に颯爽と帰っていったとのこと。
 
ま、こんなのも田舎暮らしの一面ですわ。地元の方に助けを求めると、こんな感じのワイルドな解決方法を取られることが多々あります。もし天井からムササビが落ちてきたら、そして飛び散った内臓を片付けるのが嫌ならば、ドアを開けてそっと逃してやりましょう。
 
──【BOOK REVIEW】────────
 
『ハッタリの流儀』 堀江貴文
 
ホリエモンさんの新著。やりたいことをやれ、遊びを仕事にしろ、というおなじみのメッセージに加え、何かでかいことをやるという「ハッタリ」が重要って話。でかい話をぶち上げて、世間に対して「ボケ」の側に回れ、と。一億総ツッコミ時代に、あえてボケの側に回ることが、今の社会でのし上がる方法だよ、という話。
 
自分で事業を立ち上げようとか、多くの人と繋がりたいとか、目立ちたいとか、そういう人には、この「ハッタリの流儀」は色々と参考になるところが多いと思います。言い方を変えれば、適度な背伸びをすることによって自己成長をうながす、という感じかな。キンドルなので読者プレゼントはありません。
 
──【CLOUD FUNDING】───────

子どもたちを原生林に連れていきたい!!~本当の森体験ツアー

 
ちょっと関わっている団体のクラウドファンディングのご紹介。もう目標額は達成したみたいですが。「森」と一口に言っても、日本には色々な森があって、スギやヒノキの人工林(材木用に植えてある森)でも「森」なんです。で、森林体験とか言って、そういう森に行ってるのもあるので、なんだかなぁと思います。
 
本当の原生林ってのは、すごく少ないんです。スギやヒノキの人工林を減らして天然林を増やしていこうって活動に賛同して、僕も関わってます。兵庫県で森体験ツアーを実施するそうですので、お近くの方はぜひどうぞ。
 
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