和噺

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お金の噺

ビジネス書とか自己啓発本を読むと、よく「日本人はお金を汚いものだと思っている」とあります。金持ちは悪い人、悪いことをしなきゃお金は手に入らない、と。そういう思考が、あなたが「お金持ち」になることから遠ざけているから、そう考えるのはやめて、お金を愛そう、という文言です。
 
それはその通りで全く正しいと思うのですが、今日はそもそも「なぜ日本人はお金を汚いものと思うのか」という話です。結論から言えば、日本は田舎(農村社会)の文化なんです。都市文化じゃないから、お金を扱ってきた歴史が浅いんです。まだお金に慣れていないんです。
 
田舎の小さな共同体の中では、日本に限らずですが、お金のやりとりというのは、ほとんどありません。物々交換というと市場取引のような感じがありますが、もっと緩い感じです。何かがある時はあげる、ない時はもらう。見知った同士での貸し借りが、何となくある。
 
ほぼ一生、数十年を付き合って過ごす人間同士ですから、それなりにうまくやります。共有、という感じに近いかもしれない。家族間でお金のやりとりが無いのと同じことですよ。お皿洗いをしたからって、お金を貰わないでしょう(払わないでしょう)。親密な共同体の中では、お金のやりとりというのは、必要ありません。
 
じゃあ、お金はどこで生まれるのか。見知らぬ人との取引において、ですね。つまり、お金というのは都市で発生します。逆に、お金が無ければ都市で生きることは出来ない。お金は都市生活のHPみたいなものです。
 
日本は、世界的に見れば都市ではないんですよ。歴史的に。単一民族アイヌとか細かい話は置いとく)、言葉も通じる(せいぜい方言レベル)、海で隔てられた島国。ヨーロッパや中国のように、広大な平原で多くの民族が入り混じる、という環境ではありません。大陸の都市は、多民族が入り混じる場所です。そういう都市は、日本には無い。
 
もし、宗教も肌の色も髪の毛も違うヤツらが近くにいたら、以心伝心なんて文化が生まれるわけがないんですよ。そこでは、きちんとしたルール(法律)を設定して、きちんと言葉で自分の意見を主張する、という文化が生まれます。というか、そういう文化じゃないと生き残れません。文化的な自然淘汰ダーウィニズムです。
 
話を逸らせますが、ダーウィンの進化論っていうのは、戦いに明け暮れたヨーロッパの歴史を反映したものですよね。ヨーロッパの歴史しか知らないから、適者生存という発想になるんです。そうじゃない共存共栄社会は世界にいっぱいあるし、そこには悲劇的な自然選択は無いと思いますけどね。まあ、それは別の噺ね。
 
さて、ヨーロッパや中国のような社会では「お金」の重要性が日本よりは高かったです。中国では、ご先祖様へのお供えが「お金」なんですよ。白紙のお金を燃やして、先祖に捧げます。日本でご先祖様に捧げるのは、お米とかお酒ですよね。あと、お菓子とか。お金、供えないでしょう。
 
宗教に正しいも正しいくないも無いんですが、この違いは象徴的ですよ。日本は、決してお金を供えない。六文銭だけあれば事足りると思っているんです。三途の川に渡し賃が要るのは、そこが最後の「現世」だからです。日本人の思う彼岸は、お金の必要の無い世界です。
 
中国ってのは、何千年と「お金」を扱ってきた歴史があるから、お金を文化的に(日本よりは)消化しているんです。自分のものにしているんです。お金への愛情も認めるし、逆にお金を信用してもいないし。フラットです。実態としての「お金」を、日本よりは正しく捉えています。
 
なぜ日本人はお金を汚いと思うのか。というか、嫌いなのか。それは、一方で「お金ではない関係」こそが真実の関係性であり、そこに幸福があると思っているからです。日本人はずっと、そうやって暮らしてきたからです。見知った人同士で、お金ではないやり取りをして、信頼関係を結んできたんです。いまだに、そうしたいんです。
 
お金というのは、見知らぬ者同士を結びつけるのだから、逆に、お金のやり取りをすることによって、お互いが「見知らぬ者同士である」という力が働きます。作用反作用の法則みたいなものです。お金には、そういう負の力があります。というか、お金自体はフラットなものだけど、みんながそう思っているから、そういう力が付きます。
 
それは文化的な意味づけです。ハートマークが愛情を示すことには何の理由もありませんが、みんながそう思っているから、そこに意味はあるのです。お金が「人間関係を減少させる」と日本人が思っているから、本当にそうなるんです。友達とお金の貸し借りをするな、みたいな言葉には、そういう背景があります。
 
だから、自己啓発本の言う「お金を嫌うな、愛せよ」といっても、普通は難しいんですよ。だって、お金は人間関係を減少させる負の力を持っているから。みんながお金を汚いものだと思っているから。一人だけお金を愛しても、それは必然、周りの人間関係を減少させることになります。愛(共同体の所属)をとるか、お金をとるか。
 
まぁ、その辺のことを意識すれば、うまくお金と付き合えるんじゃないでしょうか。日本において、お金には負の力がある。それを分かっていれば、対処の仕方はいろいろあります。現ナマよりもスマホ決済の方が生々しくないから、負の力は弱いだろうとか、ね。逆に現ナマを渡すことは、関係を支配することになります。給料手渡しの会社は、それで人心掌握している部分もあると思いますよ。「仲間感」は減るけど「上下関係」は強化されます。まぁ、良し悪しです。
 
最後に、田舎暮らしの話と結びつけておきましょうか。お金が嫌いな人は、田舎に住むといいですよ。お金ではないやり取りが、いまだにたくさん残っていますから。野菜をもらって、お肉をもらって、お礼に何かあげたり、手伝ったり。そういう人は、お金の世界である都市にいるよりは、田舎の方が心安らぐんじゃないでしょうか。